大槌城址
きょうは、4月下旬とは思えないほどの蒸し暑さだった。外の温度計は、31℃という数字を映し出していた。
知人と大槌城址付近を散策。桜の花も殆ど散ってしまい、新緑の若葉が青々しい。いまや城内には誰の姿もなかったが、2週間ほど前なら大勢の花見客で賑わっただろう、と思い浮かべてみる。
「大槌城址」という石碑のある広場へ着き、さらに市内を一望できる高台へと上ったあたりで、ウォーキングをしていた高齢の方に話し掛けられた。ウォーキングを趣味とする78歳の方で、あそこが私の家なのです、と大ケ口方面を指さす。うちのおばあさんもおじいさんも津波で流されてしまって、ハザードマップでも浸水しない区域のはずだったのですが……。
――でも、亡くなった方には申し訳ないですが、津波が来てある意味では良かったのかもしれませんよ、と彼が突然ふっきれたように語り出したので、驚いた。しばらく間をおいてから、なるほど、そういう考え方もあるのですね、と返すと、彼は更にこう続けた。
――こうやって高台までウォーキングしてきて、こうやって市内を一望すると、ああこんなに町が変わってきているんだなあと実感しますね。ほら、あそこにインターが出来てきているでしょう。もうすぐ完成すれば、釜石や宮古までも2~30分で行けるでしょう。私が生きている間に実現するかどうか知りませんが。もしかしたら見れないかもしれない、私は延命治療だけはしないでくれ、と家族に伝えてあるので……。
たしか釜石北ICと大槌が結ばれるのは平成31年度ですよね。そう訊くと、彼は感慨深そうに頷く。もうすぐの開通ですからきっと見れますよ、と言うと一瞬目を輝かせたが、こう言った。
――けれども、見れなかったとしても別に私は何の後悔もないのですよ。私はウォーキングという趣味で人生を愉しんでいますし、ここから見えるすべての山を制覇し、何度もウォーキングし尽くしました。それに、明日も市内を10km歩くイベントに出ます。ながく趣味に没頭できるというのは意義のあることですよ。……そもそも、亡くなった方の行動検証をしている人びともいるらしいですが、それをして何になりますか、生き延びた方の行動を検証すべきでしょう、と言いたいですね。
そこまで話し終えると、それでは、と言い残して彼は去っていった。威勢のよい話し方とは裏腹に後ろ姿は華奢で、シャツの背骨がくっきり透けて見えていた。
それから、4時間くらい市内をウォーキングした。暑さの割には、心地よい風も吹いていたためか、汗ひとつかかなかった。上町の小鎚神社で、休憩がてら何枚か写真を撮った。男子中学生の集団が、自転車や地べたに座ってゲームをしていた。なぜか、みんなGokuriのピーチ味を手に持っていたのが気になった。
ランチは、知人の勧めで、シーサイドタウンマストにある千勝という定食屋へ。数限定品の千勝定食、きょうはサンマのフライだった。まだ残りがあるようなので注文。しばらくして番号を呼ばれ、料理を取りに行く。席に戻った後、知人からドレッシングはセルフで、レジの横にあると言われ、再度レジまで取りに行く。何もいわずにポン酢ドレッシングを取ろうとしたところ、――サンマは醤油が合うと思います、と優しい声で教えていただいたので、サンマにも野菜にも醤油をかけて食べた。