万有回

主に趣味の読書について綴っていければと思います。「昭和の残り滓」といわれる世代。

橋野食堂@釜石

f:id:momokawataro:20160903134542j:plain

 どこまでも素朴なラーメンである、――釜石ラーメンを食べるとそのように感じさせられる。

 「釜石ラーメン」は、透き通ったスープと極細縮れ麺が特徴といわれる。最近は、カップ麺化されるなど商業的な動きも広まっているが、東北地方の人々がイメージする「中華そば」の模範そのものであり、特に物珍しいわけでもない。従って、その地方固有の文化かと問われれば、首を傾げたくなるところもあるだろう。

 しかし、たまに釜石ラーメンを食べると、この素朴さは誰にも真似できないのではと思う。味について言葉で伝えるのはとても難しいが、特に橋野食堂のラーメン(写真は、チャーシューメン)の場合は、透明な琥珀色のスープが器になみなみ盛られ、まるでうどんの鰹出汁のようにさっぱりとしている。また、4枚の厚みのあるチャーシューは噛み応えがあり、砂糖醤油で味付けしたかのようなほんのりとした甘さも感じる。

 個人的に、鵜住居駅前にあった富乃屋という食堂のラーメンが好きだったが、ここのラーメンも器の縁のところまでなみなみとスープが注がれていたので、器を両手で持ち、まずスープから飲む癖があった。残念なことに、このお店は東日本大震災の犠牲となってしまったため、もう二度とこの味を口にできないのが悔やまれる。また、分厚いチャーシューといえば、平田の佐々木食堂という、非常に分厚く、中々噛み千切れないチャーシューを提供しているお店を想起させる。

 たまたま観光客の方がお店に来ていたが、やや微妙な表情を浮かべていた。恐らく、不味くもないが、とりたてて美味しくもなかったのだろう。その方は、「こんなに細い麺、初めて食べた」と呟いており、麺がのびてしまっているように感じたのかもしれない。

 おそらく、極細麺が使われているのは、多忙な製鉄所の社員やせっかちな沿岸部の漁師たちに配慮した結果なのだろう。注文を受けてすぐにラーメンを茹で、さっと食べて仕事に戻れるようにというように。また、スープがここまであっさりとしているのも、おそらく呑んべえが多いということに配慮し、お酒のシメ的な要素もあったのではないか。

 それに、観光客にとって賛否両論あるのは当然である。どう考えても、地味で素朴なラーメンより、斬新で物珍しいラーメンを好む人のほうが多いはずだから。ただ、このラーメンは歴史的にもとことん実用的な産物であって、この素朴さは戦後の鉄鋼業労働者の生活スタイルを考慮した結果でもある。そういう意味では、このラーメンの味よりも、このラーメンが実用的であったという事実において文化を象徴しているといえるかもしれない。