Cashew books

本を貪るのは好物のカシューナッツを食べるのに似ている

大人のための残酷童話(新潮カセットブック)

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 ここ数年、文学作品の朗読のCDなどを積極的に聴いている。特に車を運転している時など、SDカードに音源を保存しているので、MUSIC STOCKERというナビのモードで朗読を流すことが多い。せっかくなので、好きな朗読について紹介したい。

 中学生あたりに手に入れたものだが、倉橋由美子の「大人のための残酷童話」のカセットテープ(新潮カセットブック、1988年発売)。いろんな方の朗読を聴いたが、個人的に一番好きなのがこの大谷直子の朗読。(あの鈴木清順ツィゴイネルワイゼンで、原田芳雄の妻を演じていた女優。)

 この残酷童話は人間の本性をパロディックに諷刺していて、毒々しく一切救いのない世界が描かれている。過剰なまでの因果応報、理不尽な暴力を知的、諷刺的に描いているのであるから、それを朗読する者にも無論それなりの知性、諷刺性が求められる。物語の奥深さを伝えるのが朗読であるとするなら、こういう諷刺精神に満ちた作品の味わいを伝えようとすれば、自ずと理性的な狂人にならずにはいられないだろう。

 大谷直子の朗読は、特に「魔法の豆の木」を聴けばわかるが、鬼の母を演じるときの狂気は凄まじいもので、全く狂気のトーンにブレーキをかけようとしない。助動詞すらも諷刺され、「転倒」しているように聴こえてくる。この物語の仮想敵が「常識」であるなら、それなりに緻密で理性的な狂気で対抗することも目的の一つである。いくつかある朗読のうち、狂気性に追随できているのが大谷氏だと個人的に思う。まるで何か映画を観ているような気分に浸ることができるのは、大谷氏の女優としての演技力によるところが大きいのかもしれない。

 余談だが、倉橋は死後に痕跡を詒すことを過度に嫌っていたため、今頃遺した骨を舐められることにはおそらく迷惑千万だろう。舐めるなら例の甘美なマドレーヌの方を舐めたらどうかと思っているのかもしれず、後ろめたい行為であることを自覚したい。