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加計学園獣医学部新設問題についての前川前文科次官による会見(全文文字起こし)

[弁護士]

 ここに来て皆様にお話をする経緯、その気持ちを最初にお話させていただきたいと思います。

[前川前事務次官]

 文部科学省の前事務次官の前川喜平でございます。今日はお集まりいただきましてありがとうございます。座ってお話させていただきます。

 国家戦略特区における今治市獣医学部の新設について、私は文部科学省側の事務方トップとしてその経緯に関わっていたということですが、その間における行政の在り方について、私は当事者の立場の中で非常に疑問を感じながら仕事をしていたということを申し上げざるを得ません。

 今般、国会においてその間の経緯を示す文書が議論され、野党からその存在について政府に対し問い質すということが行われ、また文部科学省においてその8枚の文書について本物であるかどうか、真正であるかどうか、存在するかどうかについて文部科学省の中で調査が行われたと聞いておりますが、その結果、これらの文書については確認できなかったという結論になったというふうに聞いております。

 これにつきまして私は残念な思いを抱いたわけでありまして、これらの文書について私が実際に在職中に共有していた文書でございますから、これは確実に存在していたわけであります。そのことについて、まず申し上げたいということ。

 もちろん、今回のこの文書を巡っては、こういう発言を私がすることによって文部科学省の中でも混乱が生じるだろうと思っております。文部科学省としては調査をしたけれども確認できなかったと言っているわけですから、私が出てきていやそれはありますよと言うことによって、文部科学省としても困った事態になるということだろうと思っておりまして、私の後輩たち、あるいは私がお世話になった大臣や副大臣といった三役の方々にこの件で御迷惑をおかけすることになるかもしれません。その点については、私は大変申し訳ないとは思いますが、しかし、あったものをなかったことにはできないということで、申し上げたいと思っております。

 そしてもう一つ、私はこの今治市における国家戦略特区の獣医学部新設の経緯について、その当事者であったわけでありまして、その当事者として少なくとも昨年から今年の1月21日、私が辞職するまでの間、当事者として業務に携わっていたわけですから、その間、十分真っ当な行政に方針を戻すということができなかった、結局押し切られてしまったということにつきまして、私自身が負わなければならない責任は大きいと思っております。これは私が事務方のトップとして、また大臣を支える事務次官として、十分仕事ができなかったということでありますので、その点については私の口からもこの場を借りて、文部科学省に対してもお詫びを申し上げたいと思う次第でございます。

 こういった思いから、この文書の真正性、信憑性ということ、それからこの国家戦略特区において今治市の提案が認められ、規制改革が行われ、獣医学部の新設が行われるという運びになったこの経緯について、私が思うところを述べたいというふうに思ったわけでございます。以上です。

[弁護士]

 今のがですね、ここでいろいろとこの前に天下り問題があったりした中で辞職されて、それでその後に何でここに出てきたのかということに対する説明です。

 次に、例えば今朝私も買いましたけれども、「週刊文春」であるとか朝日新聞であるとか、そういったところで記事で引用されている文書が怪文書のようないい加減なものなのか、それとも文科省で職務遂行の中で作成されたものなのかということについて、御本人から説明をさせてもらいたいと思います。

[前川前事務次官]

 国会において提示され、それに基づいて野党からの要求に基づいて文部科学省において調査をした対象となっている文書が8種類あったと承知しております。

 この8種類の文書につきましては、これは私が昨年の9月から10月にかけて今治市の国家戦略特区の関係の課題につきまして、今治市の国家戦略特区において、文部科学省の高等教育局専門教育課から事務次官の立場で、事務次官室において報告・相談を受けた際に、私が担当課である専門教育課から受け取った文書に間違いありません。

 ですから、これは真正なるものである、文部科学省の中の専門教育課で作成され、幹部の間で共有された文書であると、これは間違いないということでございます。したがって、文部科学省においても、改めて調査をすれば存在が明らかになるはずのものであるというふうに考えております。

 幾つかの資料があるわけでございますが、文春の中でも紹介されておりますけれども、「平成30年4月開学を大前提に逆算して最短のスケジュールを作成し、共有いただきたい。これは官邸の最高レベルが言っていること」というペーパーがございますが、このペーパーは私のスケジュールによると、9月28日に私が専門教育課から説明を受けた際に受け取ったものと同じものであるということですね。内閣府から文部科学省に強く要請がきた、最初の一番強い要請がきた話でございまして、この要請が文部科学大臣までとにかく上げて、文部科学大臣が対応を求められたと、そういうきっかけになった文書といえます。

 それで、この文書に対して文部科学省として非常に苦慮していたわけでございますけれども、それに含めて大臣からも懸念点が示されたわけですね。なぜ30年4月開学でなければならないのかといった点や、やはりこれは与党の中にもいろいろな意見があるから与党の中での議論が必要ではないかと、こういった大臣からの指示もあった、と。この指示を受けて、内閣府でまた確認をするという作業を担当課はしていたわけです。その間、文部科学省としても農水省とか厚生労働省など、関係する省庁にコミットメントしてほしいということは幾度も繰り返し言っていたと、そういう状況がございます。

 「週刊文春」の中でも、大臣指示以降の後、10月4日の日付がついている義家副大臣レク概要というのがありますけれども、義家副大臣はその当時、その時点で農林水産省にコミットメントを求め、またそのために内閣官房の萩生田副長官にお願いをして、文部科学省だけではなくて、獣医師の養成、また新しい分野のライフサイエンス等の分野に責任を持つ農林水産省厚生労働省の参加を求めると、こういう作業をしてくださっていたわけですね。

 さらに、「大臣御確認事項に対する内閣府の回答」という文書がございます。この文書は私の定例会の日程からいきますと、10月17日に専門教育課から私が説明を受けた際に受け取った資料でございます。

 この内閣府からの回答というのは、いわば内閣府からの最後通告に近いもので、与党での議論は要らないということが書いてございますし、30年4月開学というのは決まったことだと、そこに「総理のご意向」という言葉も出てくるわけですけれども、30年4月ではなくて31年以降になるのであれば、それは文部科学省の設置認可の手続きが遅れるということでそうなるのは構わないが、そうでないかぎり、30年4月開学が決まったことで大前提であるとこういったことも言われている。

 また、農林水産省であれ厚生労働省であれ参加を求めることはできないと、会議に呼ぶことはできるけれども内閣府としてこの二省の実質的な参画を求めることはしないと、そういったことが申し出されたその時の資料でございます。

 いずれも真正なものである、本物であるということは、私はここで申し上げることができるわけでございます。

[弁護士]

 今の説明が、巷に出回っている書面が謂われのないものではなくて、確かに文科省の中で作成されて当時の前川氏に受け渡されたものであるという発言です。

[前川前事務次官]

 これらの文書は、私が担当課から説明を受けた時点、つまり昨年の9月から10月にかけて作成され、私が受け取ったということは間違いありません。

 それが現在もあるかどうかは、これはもう私は現在の状況を確認していないので分かりませんが、少なくとも作成したもの、共有したものは、そこに今でもあります。あるいは、パソコンのサーバーの中にあるのかもしれません。そこは、私は何とも申し上げられないが、少なくとも私が在職中に作成され、共有された文書であることは間違いないということでございます。

[弁護士]

 次に、この一連の問題について当時、内部の事務方の責任者であった前川氏が知っていることであるとか、あるいは問題だと考えていることについて話してもらいたいと思います。

[前川前事務次官]

 この広島県今治市の国家戦略特区において、その今治市における新しい獣医学部の新設に向けて、新たな追加規制改革を行うかどうかということについては、これはまず、一昨年の2015年から既に検討課題にはなっていたわけでございます。

 ただ検討するにあたっては、閣議決定で「日本再興戦略」改訂第201号というものがございます。この2015年6月に閣議決定されたこの日本再興戦略の中で、新たな獣医学部の新設を認めるかどうか検討するにあたっては、4つの条件があると閣議決定で示したわけでございます。

 それは、現在の提案主体による既存の獣医師養成ではない構想が具体化するということが1つ。

 それから、2つ目はライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになること。

 さらに、それらの需要について既存の大学の学部では対応が困難であるということ、これが3つ目ですね。

 さらに4つ目として、近年の獣医師の需給の動向を考慮しつつ、全国的な見地から検討すると。そういう4つの条件の下で検討するということが、閣議決定で決まっていたわけでございます。

 ですから、この獣医師養成の大学新設をもし追加規制改革で認めるということであれば、この4つの条件に合致しているということが説明されなければならないわけでありますけれども、私はこの4つの条件に合致しているということが実質的な根拠をもって説明されているとは思えません。

 また、文部科学省としては、大学の設置認可の権限を法律上持っておりますが、きちんと国民に説明できるかたちで権限を行使しなければならないわけであります。また、一旦設置認可がされた大学については、国民から預かっている税金から私学助成を行わなければならないということになります。したがって、大学の設置認可は、やはりきちんと根拠があるかたちで慎重に行われなければならないわけであります。

 特に医師獣医師職員など特定の分野については、文部科学省の告示である認可基準について将来の人材需要が見込めないということで、原則的に禁止というか、新設をしないという考え方に立っております。獣医学部についても、その中で獣医学部の新設は行わないという基準が既にあるわけでございまして、それは獣医学部の将来需要が見込まれないという前提があるからでございます。

 獣医学部の将来需要というのは、どこが責任を持って見通しを立てるのかといえば、それは農林水産省であります。農林水産省は獣医師国家試験も所管しておりますし、獣医師という業そのものを所管しているわけでございますから、獣医師の将来の需要ということについては、農林水産省がどんな分野でどういう獣医師が必要であるかということについて、きちんとした見通しを立ててくれなければいけない。

 あるいは、獣医学部で養成する人材で新たな分野、日本再興戦略でいわれているライフサイエンスで新たな分野があるというのであれば、その分野における新たな分野の需要というのが、きちんと責任ある省庁で明らかにされなければいけない。たとえば、新薬の開発ということについて、獣医学部で養成すべき人材であるというのであれば、それは厚生労働省で人材需要について見通しを立ててくれなければいけない。

 文部科学省としては、そういう責任ある省庁が将来の人材需要をはっきりと見通してくれないかぎりは、現在、告示で一律新設しないといっている分野において、新たな学部を新設するということに踏み切ることはできないわけであります。

 したがって、私ども文部科学省としては、農林水産省厚生労働省の実質的な参加がなければ、この問題について結論は出せないと言い続けてきたわけですね。

 ところが、結局、農林水産省厚生労働省も将来の人材需要についての見通しは示してくれませんでした。そのままで特区での規制改革が行われてしまったということでありまして、獣医学部の新設について、これまでの特例を認めるべきだという結論は出てしまったわけでございます。

 ですから、私どもとして、これは文部科学省としては、負いかねる責任を負わされたというふうに思っておりましたし、現在でも私はそう思っておりますが、改めて申し上げれば元々検討にあたって4つの条件があったと、その条件に合致しているかどうかを判断すべき責任がある内閣府がそこの判断を十分に根拠のあるかたちでしていないと私は思っております。

 また、将来の獣医学部で養成すべき人材について、その人材需要の見通しを明確に示すべき農林水産省あるいは厚生労働省が、その人材需要についての見通しを示していない、と。

 したがって、責任のあるそれらの主務省庁がそれぞれの役割を果たしていない中で、文部科学省においてその設置認可の審査をするというところまで来てしまっているということでございます。

 これは非常に行政の在り方として問題があると。極めて薄弱な根拠の下で規制緩和が行われたと。また、そのことによって、公正公平であるべき行政の在り方がゆがめられたと、私は認識しているわけでございます。

 ただ、経緯がそういうことであっても、今の状況は文部科学省がこの3月に加計学園から獣医学部新設の申請を受け取り、それを大学設置・学校法人審議会の審議に付託して、そこで審議会が審査を行っているという段階でございます。

 少なくとも文部科学省においては、きちんと基準に則って公平公正な審査をして、確かにこの獣医学部はきちんと審査した結果だと結論を出してほしいというふうに願っているわけでございまして、これ以上行政の在り方をゆがめることはないようにしてほしいと、そのように願っているわけでございます。

 私がその過程で責任ある立場にいたというのは事実です。ですから、この私の努力不足があったということは認めざるを得ないと思っておりますので、その点は最初に述べたとおりであります。

 しかし、少なくとも文部科学省がこの先は、大学の設置認可という文部科学省の専権事項の部分で仕事をしなければならないので、その部分においてはきちんとした審査をしてほしいと思っているわけです。

 

 ※続けて行われた記者との質疑応答については、今回は掲載しないこととします。