万有回

主に趣味の読書について綴っていければと思います。「昭和の残り滓」といわれる世代。

京華@むつ

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 大湊の京華で「帆立味噌貝焼き」を食す。じつは、味噌貝焼きを探して下北名産センターにも寄ったが、冬季期間は残念ながら食堂は休業しており、食べられなかった。

 味噌貝焼き(みそかやき)とは帆立の身、豆腐、葱、海藻などを味噌を加えた出汁で煮込み、鶏卵を溶き入れた下北地方の郷土料理である。一般的には帆立貝の殻を鍋代わりに用いるそうだが、京華の場合は貝殻の形をした鍋に盛りつけられている。

 まず、帆立の身から食べてみたが、噛みしめる度に深い甘みと旨味が滲み出す。さすが陸奥湾の帆立である。おそらく春に収穫した帆立を冷凍しているかと思うが、全く臭みはなく新鮮だった。何よりも、海の幸から滲み出た出汁のエキスが鶏卵と絡み合うことにより、なにか濃厚なソースのようでもあり、まるでやわらかい出汁巻き卵のような美味しさだった。帆立の貝を鍋に見立てる料理は、これまでも各地方で幾つか食べたことがあったが、こういうふうに帆立ベースの磯の出汁に味噌を加え、更にそこに卵を絡めて作る料理というのは初めてだった。

 メニューに「お酒のおつまみに」と書いてあったので、熱燗とともに味噌貝焼きをつまもうと考えたのだが、食べ進めてみると白米の上に載せて食べたくなってくる。結局、白米を注文しようかしまいか散々迷ったのだが、他にもそい刺しを注文していたのと、定食屋ならまだしも、居酒屋で白米を注文するというのも何となく粋でない気がして、泣く泣く断念することとした。

 太宰は、「津軽」で味噌貝焼きについて次のように触れている。

 卵味噌のカヤキといふのは、その貝の鍋を使ひ、味噌に鰹節をけづつて入れて煮て、それに鶏卵を落して食べる原始的な料理であるが、実は、これは病人の食べるものなのである。病気になつて食がすすまなくなつた時、このカヤキの卵味噌をお粥に載せて食べるのである。(「津軽」)

 むろん、太宰が書いているのは「津軽式の貝焼き」なので、下北半島式の貝焼きとは異なる。しかし、この濃厚な卵味噌をとろとろのお粥の上にかけてみれば、間違いなく美味しいはずである。おそらく、私がいままで食べた粥料理の中で一番美味しい料理になるだろうと容易に想見できる。

 当時はまだ結核が不治の病といわれていた頃で、この卵味噌を粥に載せて食べることが最上の贅沢だったのかもしれない。良薬は口に苦しというけれど、こんなに美味しい栄養食なら最高だと思う。それに、貝殻を鍋に見立てて、冷蔵庫にあるものでさっと作れるというのも便利だ。「貝殻から幾分ダシが出ると盲信しているところも無いわけではない」と太宰は書いていたが、やっぱりこの料理は帆立貝の殻で煮込むからこそ、美味しいような気がする。